小児のてんかん
小児期早期に発症するてんかんは、ほとんどの(1)予後良好なものと、一部の(2)発作抑制が困難で発達遅滞を引き起こす難治てんかん群(Catastrophic epilepsies)とに大別される。したがって、小児期早期に発症する難治てんかんの場合には、発作の抑制が治療の最終目的ではなく、そのタイミングが重要で、発達予後に留意した対応が必要である。
(1)良性てんかん (2)難治てんかん
(1)良性新生児けいれん
(2)良性家族性新生児けいれん
(3)乳児良性ミオクロニーてんかん
(4)熱性けいれん
(5)欠神てんかん
(6)若年ミオクロニーてんかん
(1)サプレッションバーストを伴う早期乳児てんかん性脳症(EIEE, 大田原症候群)
(2)乳児重症ミオクロニーてんかん(SMEI)
(3)ウエスト症候群
(4)レノックス−ガストー症候群
(5)ミクロニ−失立発作てんかん(Doose症候群)
(6)スタージ−ウェーバー症候群
(7)ラスムッセン脳炎

精神運動発達遅滞の原因としての小児難治てんかん

小児の難治てんかんが、精神運動発達遅滞を引き起こす理由として次の二つがある。第1の原因は、例えば滑脳症(脳回欠損)のような脳形成異常、あるいは重度の低酸素脳症や新生児ヘルペス脳炎による脳障害のように、脳の構造的あるいは代謝的異常が発作を引き起こす基盤として存在し、同時にその異常が必然的にその後の精神運動発達遅滞を引き起こす場合である。第2の原因は、持続する発作それ自身が、正常な脳機能の発達(学習)を阻害し、精神運動発達遅滞に結びつく場合である。この場合もし発作がなくなれば正常な発達が期待できる。発達遅滞を生じるほとんど全ての難治てんかんは、5,6歳以前に発症するが、この年齢は、ヒトの脳で発達的可塑性による脳形成の、あるいは重要な脳機能獲得(学習)の極めて重要な時期でもある。この時期以前であれば、脳は障害された脳部位が正常ならば担ったであろう機能を代償するように再構築される。このことを示す最も良く知られた事実は、成人で起ればほとんど回復不可能な失語症を生じる左大脳半球障害も、この時期以前であれば、言語機能が反対側大脳に構築され、正常な言語機能が獲得されるということである。実際、このような脳の発達的可塑性は、単に脳障害の回復のためだけではなく、脳機能の正常な発達の基盤となるもので、各種感覚とその統合、運動機能、言語や社会的機能の獲得(学習)に欠かせないものである。このような学習には、反復する入力(経験)とそれが暫くのあいだ脳内の神経活動として保持されることが必要であるが、頻回の発作(波)で示される異常神経活動によって、その学習(記憶)過程が阻害されることは容易に推測され、実験的にも実証されている。

大田原症候群や乳児重症ミオクロニーてんかんは、原則的に常に発達遅滞を伴っているが、他の難治てんかんでは、それほど悲観的ではない。ウエスト症候群の長期予後についてみると、報告によって差異はあるが約20%で、正常あるいは正常に近い知能指数が保たれている。レノックス−ガストー症候群についても約30%で正常発達がみられる。したがって、発達障害は、必ずしも避けられないものではないことは明らかであるが、もし発作を早期に抑制できれば発達遅滞を防ぎ、あるいは最小化できるのであろうか?

1歳前に発作発症し片側不全麻痺と精神発達遅滞を起こすと予測されたSturge-Weber症候群で、1歳までに大脳半球切除術を受けた小児では知能指数が90−99と保たれたのに対し、手術を受けなかった同様の症例では、知能指数が30−60であったという(Hoffman et al., 1979)。 結節性硬化症は、ウエスト症候群の重要な原因の一つで発達遅滞を引き起こすことが知られているが、47例中、発作が消失した6例を含む7例のみが通常の社会的活動性を獲得できたという報告は、発作の抑制が良好な発達に必要であることを示している(Fukushima et al., 1998)。発作がコントロールできた症例では、もともとその基礎的脳障害の程度が軽度であったという可能性を完全には否定できないが、同様の多くの報告からも、発作抑制がより良好な発達と関連していることは間違いない。しかも、大脳半球切除術後でも、正常な精神運動発達が獲得できるという事実は、脳の発達的可塑性が驚くほど大きいことを示している。したがって、小児の難治てんかん群では、内科的治療か外科的治療に関わらずできるだけ早期に発作を抑制することが重要であり、しかも、そのことは治療の終了ではなく、最大の精神運動発達を得る方法として捉えなければならない。このことは、小児期早期のてんかん治療に特異的な重要課題である。

参考:外科的治療の最適なタイミングについて


小児の難治てんかん
(K. Ono)