全般発作?− 両側同期性発作波に関する個人的ノート
小野憲爾, 馬場啓至
長崎大学医学部第二生理, 国立長崎中央病院脳神経外科
はじめに
1977年,Wadaによって難治てんかん外科治療のオプションとして脳梁離断が再開されてから20年を経過した.この間,主に米国で多くの臨床経験が積まれ,全般発作,特にLennox-Gastaut症候群や,急激な転倒で頭部外傷を起こし易い失立発作の症例に有効であると考えられている.我々も,1989年の成人型Lennox-Gastaut症候群症例以来すでに30例を超える難治てんかん症例で脳梁離断をおこなってきた.多くの報告でも指摘されているように,完全寛解が得られたのは一部の症例にすぎないが,ほとんどすべての症例で,発作頻度が著明に低下するとともに発作症状も軽減化してQOLの改善が得られている.このように多くの難治てんかん症例で脳梁離断の臨床的効果が確認されているにもかかわらず,そのメカニズムについては未解決のままである.脳梁が一側大脳半球で生じた発作(波)の両側化にかかわる主な経路との考えから,てんかん発作の両側化を阻止する目的で脳梁離断は始められたが,実際には全般発作に有効であって,しかも全般発作が部分発作化するのが主な効果なのではなく発作頻度が低下(発作の起こり易さが低下)するのである.このような脳梁離断効果に関しては,多く疑義も呈されていて,その理由は概念的に定義された全般発作の病態に適合しないということのようである.例えば,ペンチレンテトラゾールのようなけいれん惹起物質の全身投与モデルのように(これも推測ではあるが)全脳で同時に発作(波)活動が生じるものを全般発作である定義すれば,確かに脳梁の存在の有無はあまり関係しないとも考えられる.また,“中心脳仮説”を信じれば,脳梁の有無に係わらず両側性発作が生じ得るかもしれない.しかし,臨床的発作分類としての全般発作とは,“発作の表現としての運動症状が,(臨床的に検出される)発作の起始から両側性で,意識障害があり,発作時(臨床)脳波でもその始まりから両側の広範な大脳半球で発作波が認められるもの”という臨床的定義を用いているのであり,前述のような概念的定義を何ら前提としていないことを再確認しておきたい.脊髄運動ニューロンをブロックすればけいれんは生じないと考えられるのに,けいれん発作焦点が脊髄にあるとは考えないのと同様に,脳幹運動系の遮断で発作の表現型であるけいれん発作が抑制されたからといって必ずしもその脳部位がてんかん発作の焦点(責任病巣)とは言えないし,そこにストリキニーネを適用すると全身性強直が起こるからといってその脳部位が強直発作の責任病巣だと結論するのも正しくない.むしろ,大脳皮質からの異常な入力によって脳幹の姿勢保持に関わる筋緊張制御中枢の“二次的”な異常が起こり体軸の姿勢保持筋群の脱力あるいは過剰な緊張で失立が起こることも充分考えられる.その場合,特に体軸の伸筋群が両側性支配を受けていることや皮質脊髄路の終止部位が霊長類ではじめて脊髄前角に達することなど,ヒトと霊長類以下の動物とでの解剖学的差異も考慮してヒトの発作症状を捉えなければならないであろう.本稿では以上のような立場から, 我々が経験した症候性全般てんかんで脳梁離断を行った症例で得られた術前,術後および術中の主に発作間欠期と欠神発作時の脳波記録をもとに両側同期性発作(波)の成因について若干の考察を加え,全般発作にかかわる脳梁の役割を推察する.
発作波の生成部位 : 皮質発作波は遠隔電場電位?
皮質で観測される両側同期性発作波が皮質下のある部位(焦点)で生じたてんかん性放電の遠隔電場電位であるとの前提で,脳(頭蓋)表面の電位分布からの逆問題としてその脳部位を推定しようとする研究がある.しかし,1cm間隔で格子状に配列した電極を埋め込み電極として,あるいは術中に用いて皮質脳波記録を行ってみると,1-2cm離れた電極間で,その形態や振幅の異なる発作波が相互の時間関係を異にしながら観測される.さらに,脳表に垂直な5mm間隔の2電極間でも記録されるのでこれらは決して遠隔電場電位ではなく,大脳皮質のそこで生じているのである.個々の発作波が大脳皮質で生じているとすれば,いわゆるダイポールトレーシング法の前提条件が成り立たないので,それ以後のどんな精密な議論も全く無意味となる.このことは,磁気脳波(MEG)を用いた場合にも全く同様でモデルの前提条件が満たされて始めてその結果が考慮に値するものとなることは明らかであろう.1cm程しか離れてはいないが頭皮上で記録した脳波はかなり広い範囲の電位変化を合算していると考えられる.最近の技術的進歩により,100チャンネル以上の同時脳波記録とその2次差分を基にしたデータ処理で空間分解能を高めることが可能にはなっているが,いずれにせよ少なくとも我々が観測した限りでは,発作波は大脳皮質で生じているのである.しかも,グリッド電極を置いた比較的狭い範囲のなかでも,各電極で記録される一つ一つの発作波間で一定の時間関係が認められるわけではない.すなわち,ある短い時間だけを見れば,先行する発作波があってそれが他の部位に伝わるようにみえることはあるが,充分長い時間観測すれば,その時間的関係はむしろ偶発的で,ある特定の電極周辺に発生源があってそこで発生した発作波が100%の確率でその他の部位に伝わるというというわけではない.これと同様の関係が両側大脳皮質間でみられ,いわゆる二次性両側同期の考え方に関わるので強調しておきたい.
結論 1: 発作波は大脳皮質で生じている.
両側同期性発作波 : 中心脳性?
さて,皮質発作波が遠隔電場電位ではなく皮質ニューロンの異常活動の結果であるとして,構造のみならず機能的にも正常な大脳皮質に,短いバースト状の過剰神経入力があれば発作波が生じるのであろうか? この問題は中心脳仮説にとっても極めて重要であろう.なぜなら,Gloorの皮質−網様系仮説では,例えばネコのペニシリン全身投与モデルのように予め広範な大脳皮質にてんかん原性があってはじめて,他の脳部位(視床)からのインパルスに対して棘徐波が励起されるという.すなわち,これらの両仮説はともに皮質下(視床)−大脳皮質入力を発作波のトリガーとして考えてはいるが,発作波の病因が存在する場所の想定で大きく異なっている.JasperとDroogleever-Fortuyn(1947)の視床髄板内核の3Hz反復電気刺激により大脳皮質で両側同期性3Hz棘徐波放電が刺激中に生じたという報告がよく中心脳仮説の有力な根拠の一つとして引用されているようであるがその解釈には注意を要する.同部位は,大脳皮質に広く投射し,一部のニュウロンは6野と尾状核頭部の両方に分岐した軸索を送っていて,大脳皮質での漸増反応を引き起こす脳部位として知られているが,対側大脳皮質への投射はどれくらいあるのだろうか? 電気刺激の1発目からすでに棘徐波を惹起したのであろうか? 我々の動物実験での経験によれば,視床の反復電気刺激で大脳皮質に3Hz棘徐波放電が惹起される場合,その刺激頻度は3Hzよりも6Hzや9Hzといったより高い周波数刺激のほうが電圧閾値は低い.そして最初は普通の漸増反応として出現するが次第にビルドアップし棘徐波に変容するのである.この場合視床の電気刺激の2発目あるいは3発目毎に棘徐波が同期してみられる.このことは,強力な入力であっても正常な大脳皮質では棘徐波放電は生じないが,その入力が反復することにより,我々がまだ確実には同定していないプロセスによって次第に大脳皮質にその準備性(てんかん原性と呼ぶことにする)が二次的に生じれば,同じ入力に対して棘徐波で応答することを示しているのではなかろうか.そして,てんかん原性が高ければ弱い入力も棘徐波のトリガーになり得るであろうし,視床以外からの入力であってもよいと考えられる.この場合,大脳皮質内のみならず,大脳皮質−基底核−視床の神経回路に含まれる複数の正帰還回路が大脳皮質ニューロンの動員と発作波のビルドアップに寄与していることも示されており,その神経回路のどこを刺激しても同様な結果が得られるのであり,視床刺激に特異的なものではないと考えられる.大脳皮質発作波の生成に皮質てんかん原生の存在が必要であるという考えを支持する実験は多い.例えば,一側の大脳皮質に発作惹起物質(ペニシリン,ペンチレンテトラゾールなど)を塗布すれば,その部位に棘(徐)波が散発的に引き起こされるがそうなっても初期には反対側大脳で同期したてんかん性放電は見られない.塗布側の放電頻度が次第に増加しながら時間が経過してはじめて反対側にも同期した発作波が出現し,さらに自己維持性発作波をも生じ得るようになる.このことは,対側大脳が過剰な入力を受け続けて二次的にてんかん原生を獲得していったことを示している.そうなって始めて対側からの入力に対して発作波で応答したのである.したがって,発作惹起物質を両側に塗布すればきわめて初期の段階から両側同期性発作波が出現することは容易に想像できるであろう.そして,この両側同期性発作波は皮質−視床間の線維を切断しても残存し,脳梁離断では同期性が失われる.この実験結果の評価には,多焦点性皮質てんかんモデルであって,厳密な全般てんかんモデルでないとの批判もあるが,未だ確定していない特定の全般てんかん仮説を前提とした指摘であることは明らかである.いずれにせよ,臨床的には左右同期性の有無よりは,てんかん原生の有無や程度のほうが重要な問題である.
結論 2: 発作波の生成には大脳皮質のてんかん原生が必要である.
二次性同期: 発作波は脳梁を通って対側に伝わる?
大脳皮質への入力の主なソースは視床と大脳皮質である.前脳腹側部からのアセチルコリン性入力,中脳からのドーパミン性入力,青斑核からのノルアドレナリン性入力などはその数においてきわめて少数である.広範な大脳皮質に投射しかつ持続的(緊張的)な影響を与えているので大脳のてんかん原生にも少なからず係わっていると考えられるが,ここでは数的にはるかに多い皮質−皮質投射と視床−皮質投射のみについて考えることにする.大脳皮質一次領野では,機能的にも形態学的にもカラム構造を呈することは良く知られていたが,前頭連合野でも連合線維あるいは交連線維終末のカラム状分布が示され,このようなカラム構造は大脳皮質の基本的アーキテクチュアだと考えられている.大脳皮質には約120億のニュウロンがあり,概ね300万のカラム(モジュール)があると推定されている.したがって,1カラムあたり4000個のニューロンが含まれ,2000個の錐体細胞とその他の局所ニューロンで構成されている.平均的に換算すれば,錐体細胞の内80個(4%)が脳梁投射ニューロン,1200個(60%)が連合ニューロンで,残り720個(36%)が視床,基底核,脳幹,脊髄などへの皮質下投射ニューロンである.さらに,その入出力の違いによって,すなわち皮質−皮質カラムと視床−皮質カラムとは比較的はっきりと分離して存在している.そこで,我々は皮質発作波と同時に脳梁から(複合)活動電位を記録すれば,大脳皮質の皮質−皮質系を選択的に記録でき,他の視床−皮質系の活動と分離して明らかにできるのではないかと考えた.あたりまえのことであるが,脳梁で発作波を記録して,脳梁(線維)で発作波が起るというのではない.皮質−皮質系カラムで,少なくとも脳梁投射系カラムで発作波が生じればその唯一の出力ニューロンである錐体細胞軸索でその活動電位がモニターできるといっているのである.数え切れないほどの脳梁離断効果の研究に比べ,脳梁発作波記録の報告が動物実験においてさえ見当たらないのは不思議である.さて,現在までに脳梁離断を行った14症例で術中に両側大脳皮質脳波と同時に脳梁表面に置いた帯状電極を用いて脳梁の複合活動電位を同時記録した.失立発作や強直発作に加え非定型欠神発作を有していた症例は7例,全般性強直間代けいれん発作2例,ミオクロニー発作を主とするもの2例と前頭葉複雑部分発作3例であった.複雑部分発作の3例を除く11症例で程度の差はあるが両側大脳皮質と脳梁でほぼ同時に発作波バーストが捉えられた.それらの記録では,皮質の発作波バースト出現時以外にも発作波周期にほぼ一致した律動性電位変動が脳梁記録のみに出現することも観察された.正常(非てんかん性)の大脳で発作波が起こるかという前述の議論とも関連するが,大脳皮質の一側で生じた発作波そのものが脳梁を通って対側に伝わる(投射性発作波)という考えがあり,それを前提として両側の発作波間の時間間隔を計測して,いわゆる二次性両側同期と一次性両側同期とを区別しようとの試みも多い.もしそのように,発作波が脳梁(脳梁以外でもよいが)を伝わるのであれば,左右の発作波間の時間順序は常に一定(ある範囲の揺らぎは認めるにしても)で,一側大脳皮質−脳梁−対側大脳皮質の順でなければならない.そこで,左あるいは右大脳皮質発作波の棘波頂点を基準としてその前後それぞれ300msの区間の平均棘波パターンを100-200個の棘波の加算平均法によって推定した.その結果,多くの症例で基準反対側では小さな電位変化のみのことが多く同期の確率は低値であったが,脳梁活動電位には皮質棘波に先行して立ち上がる緩やかな陰性電位変動が認められた.この脳梁活動電位における所見は,左右大脳皮質棘波がほぼ同期して出現していた症例でも同様であり,先行する大脳皮質棘波と対側大脳皮質棘波の中間にそれらに対応する脳梁活動電位が見られることは1例もなかった. 
結論 3: 発作波は脳梁を伝わらない.
まとめ
両側同期性発作波に関する上記の議論は,次のようにまとめることができる.すなわち,大脳皮質発作波は,その脳部位にあらかじめ一次的あるいは二次的(病態),または慢性的あるいは一時的(経過)なてんかん準備状態(てんかん原生)が存在しており,神経入力に対してその脳部位内の(てんかん性)局所神経機構が充分な数のニューロンを同期的に動員した結果として,その部位に新たに生じる(反応性発作波).丁度これは,神経インパルス(興奮)の伝導が,電気信号そのものが軸索を伝わるのではなく,興奮の場所が移動して行くことであるのと相似である.発作波ではなく“発作が伝わる”という表現は妥当でこの場合,ある部位の発作性神経活動の結果生じた神経インパルスがその投射先の神経構造に二次的一時的なてんかん原生を生じさせそこに反応性発作波がビルドアップすると考えれば,時間的側面も含めて部分発作が拡大していくプロセスをよく説明できそうである.さて,両側同期性発作波の場合,経脳梁インパルスはそのトリガーになり得るが排他的ではないだろうし,発作波生成のタイミングは,その脳部位の状態(発作準備性や,直前の神経活動の状態)に依存する(自律性あるいは独立性)と考えられるので,個々の発作波間の時間差はその意味で重要な意味を持たない.特に,両側同期性発作波バーストは,両側大脳皮質それぞれが発作波を自律的に生成していて,経脳梁インパルスはそれぞれのジェネレータ間の歩調どりを行っていると考えられる.そう捉えれば,“ある時に一側が先行してもその時間差は次第に0に近づき,そして今度は対側が先行する”といったよくみられる両側同期性発作波バースト内での個々の発作波の時間差推移の所見も説明可能になるだろう.むしろ,ほぼ同じタイミングで両側大脳皮質で発作波バーストが起こり始めるメカニズムに注目した方が有意義である.動物の非けいれん性全般発作モデルやヒトで脳梁離断後に両側の発作波バースト開始のタイミングがずれることは,発作波バースト(自己維持性発作波)の起こり易さの同期に脳梁が関わっていることを示唆している.このことはBremer et al.(1965)がすでに"interhemispheric dynamogenesis" との表現で指摘しているが,脳梁神経系の持続的な相互作用が両側大脳皮質の発作波閾値を同期的に低下させていると考えれば説明可能である.残念ながら,脳梁神経系に限らず,大脳皮質の局所神経回路やカラム間結合の様相などの知識がない現在の段階ではこれ以上の推測は困難であるが,臨床的に有用であると考えられる点についてさらに述べておきたい.術中記録で両側皮質発作波バーストがかならず脳梁神経活動電位に対応した周期の大きな電位変動を伴っていた症例では手術効果が高く,脳梁神経系の活動が発作閾値に大きく関与していたと考えられる.すなわち,てんかん原生脳部位に脳梁神経(カラム)系が含まれていたと考えられる.したがって,手術適応には,想定されるてんかん原生脳部位と脳梁神経系の局在(大脳皮質全体一様に存在してるのではない)との関係を考慮すべきである.もっとも,殆どの症例で程度の差はあるが全般的な発作頻度の減少が得られているので,間接的には大脳皮質の広範な部位に影響を与えていると想像される.脳梁投射ニューロンは大脳皮質ニューロンの2%(錐体神経細胞の4%)に過ぎないが,その収束発散比は1:50といわれている.したがって,数分の1秒の間に多数のカラムに影響を与えるのは可能なことである.脳梁が比較的大きな目立つ構造であることから受ける印象とは異なり,脳梁離断の侵襲は少なくとも数の上では小さい.しかも,最近の我々の研究によれば,脳梁離断後も脳梁投射ニューロンは死滅することなく生き残る.このことは,おそらく大部分の脳梁投射ニューロンは,脳梁に軸索を送るだけでなく同側性にも投射していて何らかの機能を果たしているらしいことを示唆している.もともと脳梁線維終末が分布していた場所で脳梁離断後に起こるであろうシナプス再構築とあわせて興味深い. すでに何度も強調してきたが,脳梁離断によって発作波の(1)片側化,(2)非同期化,(3)低振幅化,(4)低頻度化,(5)持続短縮などがもたらされる.発作波の片側化,非同期化は直感的にも理解し易く,一般にこの点だけがてんかん発作における脳梁の役割として考慮されているようであるが,てんかん発作抑制という臨床的観点から見ればこのことに大きな意義はない.むしろ,発作の低頻度化や持続の短縮で示されるように脳梁離断は発作性異常神経活動の発現そのものを抑圧し,あるいはその維持を阻害すると考えられる.その抑制の程度は,てんかん原性の程度やその脳部位に脳梁系がどの程度係わっているのかに依存するであろう.したがって,極めて少数である脳梁投射ニューロンの局在や密度と想定されるてんかん原生部位との関係は当然考慮されなければならない.また,別稿で指摘したように,術後に発作波が一側化する傾向を示した症例ほど手術成績が良かったという我々の経験は,それらの症例では一側大脳皮質のてんかん原生は二次的なもので完全に慢性的なものでなかった可能性を示唆し,てんかん原生の程度も比較的低かったと考えられる.そして,継時的にサンプルされた多くの術前発作波から相互相関を基に抽出したいくつかのパラメーターを用いた統計的解析でもそれが予測可能であったことは臨床的にも有意義であろう.脳梁離断の臨床的適応についてはさらに次のことを追加しておきたい.脳梁は高次脳における殆ど唯一の交連系で左右の大脳皮質間の情報伝達に欠かせない構造であろう.脳梁後部を離断すれば,左右各視野の視覚情報はそれぞれ対側の大脳皮質だけが知ることができるいう離断症状が生じる.しかし,これは視軸を自由に移動できる通常の生活環境では自覚されない.さらに脳梁前半部(主に前頭葉部)の遮断では,少なくとも現在のところ種々の神経心理学的検査においてもその離断症状は検出できてないし自覚されることもない.脳を手術するのだから発作を100%止めなければならないという感情的な思い込みではなく,発作が多発することによる患者の日常生活上の今ある障害と手術によって発作が改善されることによる利益とを冷静に比較してみることが必要である.小児例においては,さらに頻回発作による脳障害重篤化の可能性に加えて,今しかできない種々の学習があり,その時期を逃せば将来にわたるハンディキャップとなることをも考慮すべきである. 本稿は,症候性全般てんかん症例での我々の限られた経験をもとに,両側同期性全般性発作波の成因と脳梁離断で見られる種々の効果をできるだけ統一的に説明しようと試みたものであり,我々自身の疑問や今までによく受けた質問や批判に対する答えでもある.論旨をできるだけ明確にしたつもりであるが,そのために問題を単純化し過ぎた部分もある.不備な点を御指摘,御批判頂ければ幸いである.
第二回日本冬期神経科学会議(1997年、富良野)にて