あてにならないMEG(双極子)検査
--- 誰にもわかるその理由 ---
小野憲爾
なんでだろ〜?
MEGの機械は、非常に微弱な磁気変化を測定できる、とても高価な機械ですから、導入できるところは立派な施設に限られています。まさか、高価な機械を買ってしまったから、”何がなんでも検査するぞ”なんてことはないでしょうが......... しかし、本当に信じて検査しているなんてこともまた理解できないのです!  折角の高価な機械ですから、科学的に正しい別の使い方を考えて欲しいものです。それとも私の大きな勘違いなら、どなたか御教示頂ければ有難いのですが......
MEG(磁気脳波)による双極子推定法が、てんかん焦点(原因部位)を知る有力な検査法であるといろんな学会でも喧伝され、患者さんにもそのように説明し実施されているようです。この検査法には、その大前提となる仮定があるのですが、それが確かめられないままで進められているようです。しかし現在までに蓄積されてきた生理学的知見からみても、てんかん波については、その前提条件がごく一部の例外的状況を除き一般的には成立しないと考えられますしa)ある時は電極近傍(特に硬膜下電極などの場合)で生じていると主張するなど論理に一貫性もありません。ただし、MEG検査そのものの有効性を否定しているのではありません。MEGで観測される事象は、脳波(電気)と表裏一体で脳内の局所的電流に伴って生じるものを、磁場の変化として観測しているものです。脳表に平行方向(大脳皮質の脳溝部分)の電流はMEGで、垂直方向(脳回部分)の電流は脳波で記録されやすい特性があり相補的な観測法だと考えられます。したがってMEGそのものは、てんかんの診断に有効な情報をもたらす可能性があります。問題なのは、双極子推定法という生物物理学的実体にそぐわない方法を適用することにあります。
それでは、MEG双極子検査とはどんなものなのでしょう。もし、脳内の何処かで、一瞬大きな電流(てんかん棘波)が流れた(図1の中央の実際の花火)とすれば、それは、離れた脳の外のいろんな場所でも、磁場(電場)の変化として観測されるでしょう(図1の周辺部で見える花火)。脳と頭蓋の磁気的あるいは電気的な特性がわかっていれば、脳外での観測値は、論理的に計算することも可能です(順方向問題)。実際には、脳の中は直接見えませんから、この脳の外で観測されたものから、逆向きに実際に脳の中ので起こった現象(実際の花火)の位置と大きさを推定しようとするものが、双極子推定法です(逆方向問題、図2)。この場合、実際には、脳内の一箇所で電流が流れた結果であるのかどうかは判っていないのですから、順方向問題を解くようにはいきません。必ず、“一か所の電流”(複数でもいいのですが)という前提条件がなければ解が得られません。したがって、普通はそれらの前提の元での解は、“等価双極子“と呼ばれます。ここまでは、一応論理的に問題ないのですが、実際には、その“等価双極子”が、いつのまにか無批判にあたかも“真の双極子“のように取り扱われていて、”てんかん棘波の発生源”として議論されています。すなわち、現在実施されている多くの“双極子解析法”は、脳の外で観測したものが同一発生源によるものであるという証拠がないので、論理的正当性はありません。少なくとも、同一発生源によるものと考えても矛盾しないかもという程度の検討ぐらいは必要でしょう。

(図1)近くからは大きく、遠くからは小さく見える花火
(図2)同時に複数の場所で見えた花火の大きさから、元の花火の大きさと場所を推定できます。もし、同じ花火を見ているのならという前提で。

しかし、個人的な経験や、今までに蓄積された生理学的知見からは、脳の外のいろんな場所で見ているもの(MEGや脳波のシグナル)が、それぞれ違うものを見ている可能性が高いと考えられ、実際に脳波や硬膜下電極のデータはそのように判読されていますb)。にもかかわらず、図3のように、それぞれの場所で違う花火をみているのに、それを一か所の花火の結果だと考えるのは、どう考えても無理があります。もし、ひとつの同じ花火を見ているのなら、当然、もとの花火と相似の変化(時間的にもほぼ同時で、元が2倍になれば、どこで見ても2倍の大きさに見えるはずです)が見られるはずです。こんなことc)も確かめないで、“双極子解析”とは、とても信じられることではありません。てんかんにおけるMEG双極子推定法というのは、新たな有益情報を提供するというより、むしろマイナス(混乱を増やす)情報をつくり出しているのではないかと心配です。特に工学系の若い研究者にとっては、脳内の現象や病気には馴染みがなくそして興味もないかもしれません。したがって、専門家らしい人に”てんかん発作波は、脳内の一ヶ所で生じているのだ“と言われれば、それを信じて突き進むのも当然かもしれません。しかし、出発点となる前提条件が満たされなければ、その先のどんな精密で論理的な議論も砂の上の城に過ぎないのは明らかです。もっと先達の知見も踏まえ脳の生物物理学的実体に即した方法が考案されること願っています。
(図3)しかし、それぞれの場所で違うものを見ているのなら、こんなことしても意味がありません(よね!?)。
a)てんかん波がごく限局した部位でのみ観測される場合。しかしそのような場合には、双極子もその近傍に推定されるはずで、それで新たな情報が得られるわけではない。また、推定した双極子が特定の部位近傍に集積するということは、単に磁場(電場)分布が一定であるということであって、そこに電流源があるという証拠にはなりません。モデルあてはめの残差分散が小さいことも、そのモデルが実存することの証拠ではありませんよね。別次元の話ですね?
b)双極子を仮定しながら硬膜下電極記録の場合にはその電極の近傍で生じていると考えるのは矛盾してませんか?
c)いろんな部位で観測される”てんかん波”が、常に(どのてんかん波のセットについても)に同じ時間・位相・振幅関係があること。さて実際にそういうケースが(a)のような場合以外で見つかりますか?そうでない例は日常的にいくらでもありますし、それぞれの部位で実際の電流が流れているとしか考えられない証拠はたくさんあります。たとえば、「加算平均法について、側頭葉てんかん患者の海馬内電極から記録した棘波と、側頭部のMEG棘波についてそれぞれを基準として加算をおこない、(dipole推定部位が)改善するかを調べた。その結果、海馬棘波を基準にして得られたMEG加算波形のdipole(海馬内)推定結果は良好であるが、頭蓋外(側頭部)のMEG(棘波)を基準にして加算を行うと、海馬棘波はつぶれてしまい(すなわち時間関係が一定でない、すなわち別のものであることを示している。)、推定結果も海馬外となった。」と云うMEGに熱心な先生の研究がありますが、それぞれの脳部位でそれぞれ別の電流が流れていると考えれば当然の結果ですね。 [( )内は筆者が補完しました]
この小論は、てんかん波発生源推定法としての“双極子推定法”についての個人的見解を述べたもので、一般的評価について述べたものではありません。誤り、不正確、不適切な表現などのご指摘は歓迎いたします。
2003/6/17 K.O.