<ウエスト症候群の予後> 
 
長崎県におけるWest症候群の疫学的・臨床的研究(1989−1998年)
松尾厚子1、松坂哲應1、津留陽1、中下誠郎2、田中茂樹3、馬場史子4、冨増邦夫5
長崎大学医学部小児科1, 佐世保市立総合病院小児科2, 国立長崎中央病院小児科3, 日本赤十字社長崎原爆病院小児科4, 長崎市立市民病院小児科5
Brain & Development 23(2001):575-579
要旨
 1989年から1998年に長崎県内において発症したWest症候群を対象とした。10年間に47例(男児26例、女児21例)の発症があり、発生率は出生1万対3.1であった。発症月齢は平均6.3ヶ月、症候性が39例(83%)を占めた。症候性の病因として出生前要因が25例(57%)と最も頻度が高く、ついで脳損傷の時期が特定できない低出生体重児が11例(25%)を占めた。脳形成異常群は発作消失率、発達予後ともに不良であった。調査時の発作間欠期脳波では、全般性発作波を示すものは2例(4%)のみであった。発達予後は極めて不良で、正常発達(DQ>70)を示すものは4例(11%)のみであった。 
はじめに
 West症候群(WS)は、潜因性または症候性全般てんかんに属し、その病因、予後は診断・治療法の進歩に影響されるものと考えられる。近年、画像診断の発達や新生児医療の進歩により、早期産児の発達障害に占める割合は増加し、WSの病因は変化してきているものと考えられる。そこで、1989年から1998年に長崎県内で発症したWSについて、病因、発作予後および発達予後について検討した。
対象および方法
 1989年から1998年に発症時に長崎県に在住していたWS(infantile spasm、精神運動発達の停止、hypsarrythmiaの3主徴を持つものと定義)を対象とした。まず、県内のうち、壱岐、対馬を除く(この2地域は福岡県に受診する可能性が高く、調査が困難なため除外した)、すべての小児科併設病院およびてんかん診療を行っている小児科医に対し、上記期間に経験したWSの症例数、外来受診・入院の有無をアンケート様式で一次調査した(回答率100%)。二次調査は著者らが各施設に出向き、これら全ての症例の入院および外来カルテ、脳波、画像から、既往歴、発達歴、発症年齢、脳波、画像所見、治療歴、発作予後について調査を行い、一定形式の調査表に記録した。発達予後は、現時点(調査時)における発達指数(DQ)を、発達評価表(Kinder Infant Development Scale:KIDS)を用いて測定した。発症後に県外に移住した1例に関しては、主治医から直接家族に調査を依頼し、発達予後は発達評価表を送付し、記入後に返送してもらい評価を行った。

 まず、病因を症候性と潜因性に分類した。潜因性の定義としては、(1)周産期に異常がない、(2)発症前の発達遅滞や神経学的異常がない、(3)先行発作がない、(4)発症時の頭部CT(頭部MRI)が正常、の全てを満たすものとした。さらに、症候性を出生前要因、周産期要因、出生後要因と低出生体重児(体重2,000g未満)の4群に分類した。低出生体重児とは、低出生体重以外に明らかな病因を認めないものと定義し、一群として設けた。これは、脳損傷の時期を特定できないためである。

結果
1.発生率(incidence rate)
 1989年から1998年の10年間に、47例(男児26例、女児21例)の発症が確認され、観察期間は8カ月から10年2カ月であった。この期間の長崎県における出生数(壱岐、対馬を除く)は148,999人で、発生率は出生1万対3.1であった。病因別では潜因性8例(17%)、症候性39例(83%)であった。
2.基礎疾患
 症候性WSにおける基礎疾患を表1に示した。出生前要因22例(57%)、周産期要因6例(15%)、出生後要因2例(5%)、低出生体重児9例(23%)であった。

 出生前要因群のうち、脳形成異常の2例は滑脳症であった。奇形・染色体異常6例中5例がDown症候群であった。子宮内感染症の1例は、先天性トキソプラズマ症であった。

 周産期要因群のうち、低酸素・虚血性は1例が胎児仮死、2例は新生児期の原因不明の心肺停止とショックであった。頭蓋内出血は2例とも、分娩に伴うものであった。

 低出生体重児9例は、全てappropriate for date児であった。

表1: 基礎疾患の分類
3.発症年齢
 修正月齢でみた発症年齢は、主に2〜12カ月の間に分布し、ピークは4〜8カ月、平均発症年齢は6.3カ月であった。

 低出生体重児(出生体重2,000g未満)・早産児の頻度が高いことから、在胎週数と発症年齢との関係を検討した。図1に示すように、発症年齢(修正月齢で表す)は在胎週数に関わらず、ほぼ6カ月前後になっていた。すなわち、受胎から発症までの期間は在胎週数に関係なく、ほぼ一定だった。

図1: 在胎週数からみた発症年齢
4.頭部CT所見
 発症時に頭部CTが施行されていた症例は、37例であった。頭部MRIは施行されていた症例が少なかったため、今回は検討しなかった。37例を脳損傷が生じた時期によって分類したものを表2に示す。頭部CT上、正常とされたものは16例(43%)であった。

 異常が認められたものは21例で、脳形成異常9例、破壊性脳病変12例であった。ここで、脳形成異常とは、脳の発生段階で異常が生じたものとし、一旦脳が形成された後、周産期以降に脳損傷を受けたと考えられるものを破壊性脳病変として分類した。破壊性脳病変群のうちCT上、脳室周囲白質軟化症(PVL)と診断されたものは4例であり、これらの在胎週数は26週から32週であった。水頭症の2例は、1例が超低出生体重児の脳室内出血後水頭症であり、1例は先天性トキソプラズマ症であった。一方、低出生体重児9例の頭部CT所見をみると、PVL4例、水頭症1例、脳萎縮1例、正常3例であった。

表2: 頭部CT所見
5.治療
 対象例に対する治療法では、valproate sodium(VPA、43例)、clonazepam(CZP、38例)、ACTH(33例)、vitamin B6(28例)が多く使用されていた。ACTH使用群(33例)において、24例(73%)で発作の消失が認められた。ACTHは0.0125〜0.04mg/kg/dayの量で使用されていたが、投与量による有効性の差は認められなかった。ACTH非使用例(14例)には、抗てんかん剤のみで発作が消失したもの(9例)と、感染症などの理由で使用できなかったもの(5例)が含まれた。ACTH使用中の原因不明の突然死が1例認められた。
6.調査時の発作と発作間欠期脳波所見
 調査時の発作消失率は、全体で45%、症候性39%、潜因性75%であった。

 残存する発作型としては、強直発作9例(35%)、tonic spasm3例(13%)、非定型欠神発作2例(9%)、ミオクロニー発作1例(4%)、Lennox-Gastaut症候群2例(9%)と全般発作が17例(74%)に認められた。一方、部分発作を残したものが6例(単純2、複雑4)認められた。

 調査時の発作間欠期脳波所見で、てんかん波を認めないものは16例(35%)であった。

一方、てんかん波が残存する30症例(65%)では、多焦点性39%、焦点性13%、一側性8.7%、全般性4.3%と、非全般性てんかん波を示すもの(60.7%)が大部分を占めた。

 次に、調査時の脳波所見と発作の有無を検討したところ(図2)、てんかん波が消失しているか、単一焦点性のものは発作消失率が高く(81.8%)、多焦点性、全般性では発作消失率が低かった(8.3%)。

図2: 調査時の脳波所見と発作の有無
 No:てんかん波なし F:単一焦点性 MF:多焦点性 UL:一側性 D:全般性
7.発達予後
 発達指数(DQ)の調査時年齢は1歳1カ月から10歳9カ月であった。平均DQは25と極めて低値であり、DQ70以上の症例は4例(11%)のみで、DQ40未満の重度発達遅滞を示す症例が27例(77%)と大多数を占めた。次に、発達予後の不良因子について検討した(表3)。症候性と潜因性では、症候性においてDQは有意に低かった(p<0.01)。脳形成異常群と破壊性脳病変群では、前者が低値であった(p<0.05)。発症前の発達遅滞の有無では、発達遅滞の有る群が低かった(p<0.01)。発作の再発の有無では、再発群が低く(p<0.01)、調査時に発作が残存する群と消失した群では、残存群が低かった(p<0.001)。
表3: 発達予後因子によるDQの比較
考察
 本研究におけるWest症候群の発症頻度、出生1万対3.1はこれまでに報告された他の研究結果とほぼ同等であった。 

 病因別では症候性83%、潜因性17%と、症候性が多くを占め、症候性では、これまでの報告と同様に出生前要因が最も頻度が高かった。周産期要因は、近年、新生児医療の進歩によって減少したと言われており、今回の研究でも15%と低頻度であった。低出生体重児は、脳損傷の時期を一つに特定できないため、一群として検討をおこなったところ、23%と高い頻度を占めた。未熟児・新生児医療の進歩によって、新生児死亡率は減少したが、WSに占めるPVLや低出生体重児の割合は増加したと言われており、今後、脳の保護に重点をおいた出生前から周産期までの医療的対策が必要であると考えられる。Wyllieらは、出生前の傷害によってPVLをきたした症例が、同時に皮質形成異常を示した症例を経験し、出生前にPVLをきたすような病因が、同時に皮質形成異常も起こしうると報告している。

 発症年齢を修正月齢でみると在胎週数に関わらずほぼ6カ月前後であった。このことから、WSの発症は出生後の期間ではなく、受胎からある一定の期間後に発症するようにみえる。すなわち、WSの発症は、脳損傷の時期とは独立して、脳があるmaturationに達してから起こるのではないかと考えられる。

 頭部CT検査によって潜因性から症候性と診断が改められたものは、今回の検討ではなかったが、今後MRIやPETにより、症候性と分類される症例が増加する可能性があり、今後の病因に関する疫学研究に期待したい。

 ACTH使用例の73%で発作の消失が認められた。使用量による効果の差は他の報告と同様に認められなかった。現在ではより副作用の少ない低用量が推奨されている。しかし、有効性も高いが突然死を含めて副作用も多いACTHに対して、最近vigabatrinが同等の効果を示したとの報告があり、興味深い。

 WS後に起こる発作型として、複雑部分発作などの部分発作を示す症例が認められた。新生児や乳児の脳は、その未熟性のために限局性の皮質病変でも、部分発作を示しにくく、脳の成熟に伴って部分発作を呈するようになったと考えられる。また、調査時の発作間欠期脳波でも大部分が焦点性または多焦点性発作波を示し、全般性発作波を示す症例はわずかであった。このことは、WSの発作が大脳皮質に起源していることを示唆している。    

 調査時の平均DQは25と極めて低く、70以上を呈したのは10%程度であり、WSの発達予後は極めて不良であった。従来の報告では、潜因性は予後良好とされているが、今回の研究では必ずしも潜因性の予後が良好であるとは言えないようである。脳病変の違いによる調査時のDQを比較すると、破壊性脳病変に比べ、脳形成異常においてDQがより低値であった。脳形成異常群では、脳発生段階の早期に異常が起こり、これがその後の脳発達に大きな影響を与え、重度で広範な脳障害を来したものと推察される。しかし、脳形成異常より、周産期の脳損傷の方が発達予後、発作予後が悪かったとする報告もあり、脳障害の時期、程度、分布などを考慮した詳細な研究が必要である。

 最近の報告によれば、内科的治療に抵抗性で、限局性皮質異常を伴うWSに外科治療を行ったところ、発作予後と発達予後の改善を認めていることから、難治例に対しては、積極的に皮質異常の検索(脳波、SPECT、PETなど)を行い、外科治療可能なWSは早期に外科治療を考慮する必要がある。