小児科臨床での抗てんかん薬の使用



 

抗てんかんの薬をいつ始め、いつ中止するか。

抗てんかん薬投与を始める決定は、部分的には再発の危険性による。初回発作後の再発の可能性はまちまちであり、 いくつかの要因によって影響される。初回発作に続く再発に関する研究によれば、てんかん発作の病因および脳波が再発の最も強い予言者であり、 24%(特発性で正常な脳波)から65%(症候性で脳波のてんかん様変化)まで再発の危険に差があった。部分発作では再発の危険が高かった。 全体での 初回発作後の再発は、2年間で42%であった。興味深いことに、初回発作が寝ている時に起こったか、おきている時に起こったかによって 再発率が異なり、347人の子供での前方視的研究では、初回発作が睡眠中に生じたものでは55%、おきている時に起こったものでは35%が4年以内に再発している。 治療するかどうかの決定は、再発の危険性だけでなく、発作再発によって生じるかもしれない病的悪影響や抗てんかん薬治療で起こるかもしれない副作用を考慮して決められる。この情況下では、子供は大人と相違を示す要因もある: 発作によって傷つく危険性は、成人より低く(子供は運転せず、機械類にさらされず、成人よりも制御された環境で生活している)、 発作の社会的、心理的なインパクトは多くの場合それほど重大ではないかもしれない。てんかんは特発性であれば、自然と治まり易いし、 抗てんかん薬の認知機能への副作用は気づかれにくい。 初回発作後の治療はすべての場合に一律には決められない。その患者についての利用可能な情報をすべて考慮して一人一人に最適な治療が決定されなければならない。普遍的なガイドラインは提供することはできないが、Table 1に、投薬しないで経過観察をするのがよいのか、 抗てんかん薬による治療の開始すべきかを決める要因を示す。ただ、再発のいくつかの危険要因があっても、”初回発作後には治療しない”ことが多いことを留意しておくことが重要である。 
Table 1. 初回発作後の抗てんかん薬治療開始決定に影響を及ぼす要因
治療せずに観察 治療を開始する
特発性の全般性強直間代性けいれん発作 部分発作 
先行する急性の症候性発作なし 症候性発作
脳波上の棘波なし 脳波上の棘波
てんかんの同胞なし てんかんの同胞あり
重積発作なし 最初の発作が重積
Toddの麻痺なし Toddの麻痺
良性小児てんかん 睡眠中の初回発作

 
抗てんかん薬治療の中止を考慮すべきいくつかの理由がある。 主要な議論は薬の副作用、薬物治療および血中濃度モニタリングのコストおよび心理的依存である。治療開始の決定と同じように、中止も利益対危険分析に基づいて決められる。 てんかん発作再発の危険と中止による利点を比較検討しなければならない。 幼年期発症のてんかんの方が、成人発症のてんかんよりも抗てんかん薬の減量および中止が成功することが多い。 抗てんかん薬物治療を中止した後の発作再発の危険についてはかなり多くの情報が蓄積されている。 再発の危険因子には既知の病因、12歳以後の発症、てんかんの家族歴、焦点性あるいは全般性の脳波の徐波化(特発性てんかん)、異型熱性けいれんの既往、およびIQが50以下(症候性てんかん)などの項目があげられる これらの要因があれば、36%の平均再発率よりもかなり高い発作の再発を引き起こすかもしれない。 したがって、2年以内の再発率は危険因子がない場合の12%から3つの危険要因をもった症候性てんかんでの78%まで様々である。良性のローランドてんかんでは誰も再発しなかった一方、若年ミオクロニーてんかんのすべてで再発したことは注目すべきである。 この種の情報は、任意の与えられた患者での薬物治療中止のより正確な利益対危険分析を可能にする。 さらに、一般に信じられていることに反して、発作が再発した場合でも発作コントロールはほとんど常に薬物治療の再開により可能であるという事実は、積極的に抗てんかん薬治療の中止を試みることを支持する。 ほとんどの研究では、薬物治療は、発作がおよそ2―3年なければ中止されているが、これは臨床的に確立されているためである。 発作の期間について無作為化されなければ、再発率における無発作期間の長さの影響を評価することはできないが、これは倫理的に実行困難である。 無作為化されていない研究では、危険因子がある場合の方が、より長い無発作期間のあいだ薬を飲み続けることが多いようであるが、無発作の期間を2年以上に延長することによって本質的な利益があることを示唆する文献的証拠はない。

発作型、症候群あるいは特別の適応に基づいた抗てんかん薬の選択

一旦治療を開始する決定がなされたならば、最初のステップは患者に対する第1選択薬を決定することである。 選択は主として効能および副作用プロフィールに基づく。 いくつかの理由のために、この選択は成人より小児においてより複雑かもしれない。子供では種々様々の発作型および症候群がある。 確立している薬剤の大部分の研究は、薬剤間の相対的な比較を含めて成人で実施されている。 さらに、新しい抗てんかん薬についても、初期研究が大部分成人で行なわれているので、小児科の治療においてそれらの適応を決定するのはより困難である。 いくつかの薬は、薬物動態学的に子供で使用できない。 伝統的に、抗てんかん薬の選択は発作型に基づくが、特に小児科の年齢範囲では、抗てんかん薬の効能を症候群あるいは病因に基づいて評価する傾向がある。 発作型とてんかん症候群の間には広範囲な対応があるため、このような区別は無関係かもしれないが、ある発作型の薬物治療に対する反応はそれを生じる症候群に広く依存していて異なる可能性もある。例えば、ミオクロニー発作は、若年ミオクロニーてんかん患者の80%で抑制されるが、乳児重症ミオクロニーてんかんではほとんど全く抑制されることはない。 これは、ミオクロニー発作が、特に治療に対する反応で一様ではないことを示している。 
抗てんかん薬の選択は、発作抑制における有効性だけに基づくのではなく、様々の薬物での効果と副作用の得失比を比較して決定される。 特定の発作型に対して同じ効能をもつ複数の抗てんかん薬があれば、薬剤選択はその患者で予期される副作用に依存する。 全体としては、子供と成人で抗てんかん薬副作用の質的あるいは量的差はないが、 明らかに年齢依存の副作用もある。 フェノバルビタールやクロナゼパムの鎮静的でない行動上の変化は、子供においてより明確に認められる。 年齢が低いほどバルプロ酸の致死的な肝臓機能不全の危険が高いことはよく知られている。いくつかの新薬が利用できるようになって抗てんかん薬の最良の選択がより難しくなった。 各発作型あるいは症候群でこれらの新薬がどれくらい有効であるかは正確には確立されていない。また、以前からある薬と新薬を比較できる研究はほとんどない。 小児科の年齢集団で生じる様々な発作型およびてんかん症候群に対する第1あるいは第2選択抗てんかん薬をTable 2 に示した。 一部は科学的根拠に基づかない単なる提案である。 したがって、この表で示した一部は、新しい比較研究の結果あるいは、危険/利益比率の再評価によって変更され得る。 

Table 2. 発作型およびてんかん症候群による抗てんかん薬の選択

第1選択薬 第2選択薬 考慮する他の薬剤
部分発作(二次性全般化) カルバマゼピン、フェニトイン バルプロ酸 フェノバルビタール、プリミドン、クロナゼパム、クロラゼプ酸、アセタゾラミド
全般性強直間代けいれん発作 バルプロ酸、フェニトイン、カルバマゼピン フェノバルビタール、プリミドン クロナゼパム
欠神てんかん(10歳前  エトスクシミド、バルプロ酸 アセタゾラミド、クロナゼパム
欠神てんかん(10歳以上) バルプロ酸 エトスクシミド、アセタゾラミド、クロナゼパム カルバマゼピン、フェニトインあるいはフェノバルビタール(全般性強直間代けいれん発作で、バルプロ酸が副作用のため使用できないとき)
若年ミオクロニてんかん バルプロ酸 Lamotrigine、フェノバルビタール、プリミドン、クロナゼパム カルバマゼピン、フェニトイン、アセタゾラミド
進行性ミオクロニーてんかん バルプロ酸 バルプロ酸、クロナゼパム、フェノバルビタール
レノックス−ガストー症候群および関連症候群 バルプロ酸 クロナゼパム、フェノバルビタール、エトスクシミド ニトラゼパム、ACTHあるいはステロイド、ピリドキシン、ケトン食
ウエスト症候群 ACTHまたはステロイド バルプロ酸 クロナゼパム、ニトラゼパム、ピリドキシン
中心・側頭部に棘波を持つ良性小児てんかん カルバマゼピン、バルプロ酸 フェニトイン フェノバルビタール、プリミドン
新生児発作 フェノバルビタール フェニトイン クロナゼパム、プリミドン、バルプロ酸、ピリドキシン