発作促進因子
てんかんでない人でも、全身性疾患、あるいは直接の大脳の一過性障害によって発作が引き起こされることがあります。このような発作は「急性症候性発作」あるいは「機会発作」と呼ばれます。てんかんは、特別の理由がなくても繰り返す発作で特徴づけられる状態として定義されますが、ほとんどの発作が自然に生じるように見えても、実際には身体内外の様々な環境の変化によって発作が引き起こされていることがあります。すなわち、脳固有の性質として発作を生じるメカニズムを持っているが、てんかんの人では、発作を起こす条件が緩やかな(=発作を起こし易い=発作閾値が低い)状態であると言うこともできます。図1のように、発作の起り易さは刻々と変動しており、それが、その人での発作閾値を越えた時に、発作が起ると考えたら理解し易いでしょう。抗てんかん薬治療によって、あらかじめ発作閾値を高めておけば、同じ条件でも発作が起きないことになります。発作の起り易さは、身体内外の様々な環境の影響を受けて変動しており、発作の起り易さを発作閾値に近づける方向に作用する因子を、発作促進因子を呼びます。以下にあげるような因子がありますが、そのような因子を除外できれば抗てんかん薬治療がさらに有効となります。一方、抗うつ薬、精神病治療薬、中枢神経刺激薬、血糖降下剤、抗菌剤、アミノフィリン、抗ヒスタミン剤、エフェドリン、ステロイドなどの薬物は、発作閾値を下げることによって発作を起り易くすることがあります。
(1)発熱
熱性けいれんは、体温の急激な上昇によって引き起こされる発作で、5歳以下特に3歳以下の幼児でのみ通常見られます。しかし、年齢に関わらず特に高齢者で、感染症による発熱で発作が起ることがあります。
(2)過換気
過換気は、中枢血管の収縮を引き起こす呼吸性アルカローシスを起こし、大脳の酸素およびグルコースのレベルを変化させます。努力性過呼吸は、一部の人で発作を引き起こすかもしれません。 過換気は、小児の欠神発作を容易に誘発します。無意識の過換気は、日常の不安、泣くこと、あるいは性行為の間に生じるかもしれません。
(3)睡眠
中心・側頭部に棘波を持つ良性小児てんかん、症候性あるいは潜因性の前頭葉てんかんや側頭葉てんかんの様ないくつかのてんかん症候群では、発作は睡眠の間に多く起ります。
(a)睡眠遮断
若年ミオクロニーてんかん(JME)では、発作の促進因子です。深夜までの勉強とか社会活動への参加とかが、しばしばミオクローヌス発作や全身性強直間代を誘発します。睡眠遮断は脳波を活性化する効果があり、てんかん診断の目的でよく利用されます。
(b)突然の覚醒
突然の覚醒はJMEの主な促進因子です。 刺激された覚醒は自発的なものより危険です。 睡眠が、夜の初期のREM睡眠のように不安定な相や、最後の第2相で中断されると効果はより顕著です。
 
(4)疲労と運動
エアロビック運動が発作閾値を上げると示唆しており、そのために、発作が起り難くなるかもしれません。休息時の過換気は運動時の過換気と異なり、運動中には生じる代謝性アシドーシスがないので発作をめったに誘発しません。運動によって引き起こされる発作は運動の直後に生じます。 断続的運動より連続的運動の方が発作が起き易いようです。運動後の回復期におけるpH値が低いほど脳波のてんかん性異常の数も増加します。強い運動後に持続する低酸素と低血糖状態も影響するでしょう。
(5)アルコール
成人において、アルコールの摂取が発作の原因となることは一般によく知られていますが、アルコールの適度な摂取が発作発生に影響を及ぼすという実験的証拠はほとんどありません。 実際、適度なアルコール摂取が発作を起こさず脳波のてんかん性異常も減少させるという報告もあります。慢性アルコール依存者(てんかんであるかに関わらず)で、大量飲酒時に、通常は断酒時に発作が起ることがあります。非アルコール依存のてんかんの人では、過度の飲酒後に発作が起り易いかもしれません。特に睡眠不足で過度のアルコール摂取したときには、アルコール血液濃度が急速に低下する時に発作が起ります。
(6)ホルモン
‘月経てんかん’は、月経前4日から月経後6日の期間内に全発作の少なくとも75%の発作が生じるものとして定義されますが、それは珍しい状態です。 ほとんどの発作は月経周期の様々なポイントで観察され、月経周期でのホルモンあるいは体液の状態の変化や、あるいは抗てんかん薬血中濃度の変化と恐らく無関係です。ホルモン療法は効果ありませんでした。妊娠も大きな影響ではありません。ある報告では、妊娠している女性の37%で発作増加、13%で発作減少、および50%で変化がありませんでした。発作が増えるとすれば、抗てんかん薬の体内分布の変化や、コンプライアンス不良がその原因のようです。
(7)情緒的要因
ある研究では、患者の58%が、心配、不安、フラストレーションおよび怒りのような情緒的なストレスを二番目に多い発作促進因子にあげました。別の研究では、51人中少なくとも20人が、最初の発作の直前に、母親の死とか配偶者の病気といった厳しい情緒的障害を経験していました。脳波記録をしながらのストレス・インタビューでは、その間に発作が起ったり、てんかん性活動の出現、増加がみられました。情緒的な要因が発作を誘発するメカニズムはまだ解明されていませんが、情緒的障害は、睡眠障害、コンプライアンス不良、過度の飲酒あるいは、過換気をも引き起こすので、多くの要因が関わるでしょう。
(8)代謝要因
著しい代謝の撹乱が、下痢、便秘、急性感染症、肝および腎不全、および利尿剤摂取によって、特に小児や高齢者で起ります。高ナトリウム血症か低ナトリウム血症、低カルシウム血症および低血糖症は発作を引き起こします。 糖尿病では、インシュリンまたはスルホンアミドの過剰服用による低血糖状態でしばしば発作が生じます。

誘発発作
発作は特定の刺激で起きることがあります。 反射てんかんということもありますが、実際には、単純な反射弓ではなくもっと複雑なメカニズムで起こるので、適当な用語ではありません。 発作を誘発するメカニズムがすべての人で同じではなく、いろんな人で多様な刺激が発作を引き起こします。
(1)視覚刺激
光感受性てんかんは最大のカテゴリーの誘発てんかんで、一般に思春期に現われて、30歳代で消失します。いくつかの種類の網膜刺激で、主に全般性強直間代痙攣発作、欠神発作やミオクローヌス発作を誘発します。 点滅するストロボ光のような間欠的な明るさの変化が通常の誘発刺激です。暗闇から明るい場所への移動、まばたき、壁紙の縦縞のようなコントラストの強い図形を視覚的にスキャンすることなども、発作を誘発するかもしれません。テレビやビデオゲーム誘発発作では、その誘発因子としてチラチラする画像、スクリーンの明るさ、幾何学的図形や実際の画像内容などが考えられています。
(2)聴覚刺激
周期的な音のような純粋に聴覚刺激が発作を誘発することは、非常にまれです。驚愕てんかんでは、突然の予期しない雑音が驚愕やジャンプを誘発し、強直発作を引き起こします。しかし、この場合、聴覚刺激ではなく運動に伴う自己受容害器からの求心性入力が障害のある皮質に流入することが原因です。 そのような発作は、脳性麻痺やLennox-Gastaut症候群で比較的一般的に見られます。
(3)体性感覚刺激
身体の一部分を触れられたり、熱い湯の中に浸したり、歯みがきとかの、外受容性刺激が部分発作を誘発することがあります。 焦点性皮質病変があれば、手足の受動的あるいは能動的運動が発作は引き起こすかもしれません。驚愕てんかんの場合と同じように、運動に起因する自己受容性フィードバックが誘発刺激です。
(4)複雑刺激
読書てんかん
一次読書てんかんは、あごの間代性痙攣で始まる発作によって特徴づけられます。読むことを止めなければ、全般性強直間代けいれん発作へ発展するかもしれません。眼球筋、咽頭、喉頭筋からの自己受容性刺激と精神活動の影響などの多元的刺激で起こります。
音楽てんかん
音楽てんかんは、特定の音楽刺激によって引き起こされる、複雑部分発作によって特徴づけられます。特定の人の声によって誘発される発作のように、音楽の情動性が音の周波数より重要です。
他の刺激
言語で引き起こされる発作は、言語機能の3つの側面(話す、聞く、書く)の1つあるいは、それ以上と関係があります。さらに、摂食行動も発作を誘発するかもしれません。感覚、自己受容性感覚(咀嚼)、内臓感覚(食物の食道通過および胃の充満)などの、いくつかの病態生理学的メカニズムが、別々にあるいはコンビネーションとして作用するかもしれません。認知活動もまた発作を軽減したり誘発することができます。 計算あるいはトランプ、チェスのようなゲームにより引き起こされる発作があります。 精神的努力、ストレス下の複雑で連続する意志決定、空間的認識課題および随意的な指の運動が、誘発メカニズムと考えられます。
(5)自己誘発発作
自分で発作、通常欠神発作を誘発できることを偶然に見出すことがあります。太陽を見ながら目の前で手を振ったり、素早くまばたきしたり、あるいはテレビに非常に接近して座ることによって、わざと発作を引き起こします。 外受容性あるいは自己受容性刺激、過換気あるいは精神活動のような非視覚的刺激での自己誘発は、ほとんどありません。

(K. Ono)