てんかん外科 現状と役割 脳波ビデオモニタリング 側頭葉てんかん
側頭葉外部分てんかん 大脳半球切除術 脳梁離断術

側頭葉てんかん


(1)側頭葉てんかんに対する手術の進歩
難治てんかんの外科治療の中で最も多く行われて来たのが側頭葉てんかんであり, 北米を中心に 1985 年以前には 2336 例が, また 1986-1990 年に は 4862 例に対して前側頭葉切除術が行われ, さらに 1985年以降には選択的扁桃核海馬切除が 568 例に行われている. 1800 年代に非けいれん性てんかんの存在がすでに認識されていたが, 1800 年代末に Jackson が夢遊状態 (dreamy state) あるいは鉤回発作 (uncinate fit) を記載し, 初めて側頭葉のてんかん発作について注目した. 1886 年にてんかんの外科治療が Horsley により始められたが, 脳波が発見されるまでは外傷性瘢痕, 脳腫瘍, 奇形などの明らかな原因のある例に限られていた. 1940年代になり Gibbs と Jasper が精神運動発作の脳波所見を記載し, 1951 年 Gibbs による脳波所見をもとに Bailey が初めて精神運動発作例の手術を行った. 初期の例では術中脳波記録をもとに側頭葉外側皮質の切除が行われたが, 扁桃核, 海馬, 海馬傍回の切除が行われるようになり手術成績が向上した. この点, 側頭葉てんかんにおける海馬を含む側頭葉内側構造の重要性を広く認識させた Falconer の功績は大きい. すでに 1880 年代に Bouchet と Cazauvieith あるいは Sommer により海馬の損傷がてんかんの原因であると報告されていたが, Falconer は側頭葉てんかんの切除例の病理学的検討を行ない, 50% の例でアンモン角の錐体細胞の脱落およびグリオーシスを認め, それがしばしば海馬をこえて存在していることから, それらを mesial temporal sclerosis と一括し, その機序として幼児期の熱性けいれんを重視した. このような海馬を中心とした病理と側頭葉てんかんの明らかな関係がその後の側頭葉内側を含めて側頭葉切除を行う手術術式の確立に大きく影響を及ぼしたものと思われる. 標準的前側頭葉切除術は前側頭葉を海馬および扁桃核を含めて切除するもので, 優位側では側頭葉極より 4.5-5cm,非優位側では 5-6cmの切除を行う. 切除法としては側頭葉を海馬, 扁桃核などの内側構造を付けたまま en bloc に切除する方法と側頭葉外側皮質の切除後に内側構造を切除する方法がある. en bloc 切除では切除標本の検索を行ないやすいが, 後者では最初に側頭葉外側皮質の切除を行うために広い視野が得られ, 内側構造の切除の際より安全に手術操作が行える.

一方, 深部電極, 硬膜下電極による脳波ビデオモニタリングによる研究結果より, 現在では側頭葉てんかんは大きく扁桃核-海馬発作(辺縁系内側基底部あるいは嗅脳発作)と外側側頭葉発作に分類されるようになった. 側頭葉てんかんの多くが扁桃核-海馬発作であるため, できるだけ正常の側頭葉皮質を温存すること, および優位側手術の際には言語障害を生じないようにすることを目的に手術法の改良がなされている(裁断的前側頭葉切除). Spencer は深部電極の所見より扁桃核-海馬発作例では上側頭回を温存し, 側頭葉の先端 3-3.5 cm の切除を行なうことにより, 側頭葉内側構造に達する方法を考案しているが, その利点として優位側切除においても functional mapping なしに言語障害をきたすことなく切除可能で, 視野障害も少ないことを上げている. また, Ojemann らは局所麻酔下で手術を行ない, 術中刺激により言語中枢の詳細な mapping を行っている. この結果では言語中枢は各個人によりかなり異なった部位にあり, 術後合併症を減らすためにはこのような部位を温存する必要があるとしてい るが, 局所麻酔下であり, 限られた時間内に多くの検査を行う必要があるため, 患者の充分な協力が得られる場合以外は行えないなどの欠点がある. このほか顕微鏡手術の進歩に伴い, 側頭葉内側構造の扁桃核, 海馬のみを切除する選択的扁桃核 - 海馬切除術が行われるようになった. Niemeyer と Bello は中側頭回経由で側脳室内に入り, ここより扁桃核, 海馬を切除する術式を初めて報告した. さらに, Wieser と Yasargil はシルビウス裂経由で側頭葉内側に到達し, 2cm程度の皮質切開を側頭葉内側面に行ない, 側脳室下角に入 り, ここより扁桃核, 海馬傍回, 鉤および海馬のみを切除する術式を報告した. この術式では非常に狭い視野より側頭葉内側構造の切除を行 うため熟練した技術を必要とする. また,近年 Horiら は側頭下アプローチにより紡錘回経由で側脳室に到達, ここより扁桃核, 海馬を切除する subtemporal selective amygdalohippocampectomy を報告している. この方法では側頭葉内側構造のみを切除できるだけでなく, 必要であれば外側皮質, 海馬後半部の切除も可能である.
(2)手術適応
(a)内側側頭葉てんかん症候群(私どもの手術成績)  
近年, Wieser らは海馬硬化を伴い手術結果が良い側頭葉てんかんの一群を内側側頭葉てんかん症候群としてその臨床的特徴をまとめた. これはてんかん発作分類の扁桃核-海馬発作に相当するものであるが, 臨床的特徴として1歳ま でに熱性けいれんの既往があり, その後, 5-10歳頃にしばしば二次性全般化を伴う複雑部分発作として発症する. また, 初期には抗けいれん剤に良く反応するが, その後発作が再発し難冶性となる. 発作型としては上行性の上腹部不快感あるいは恐怖感といった前兆に続き, 凝視を伴う動作の停止, さらに意識減損, 口部あるいは手の自動症が認められ, 発作後に数分間のもうろう状態に移行する. 蝶形骨誘導を用いた頭皮上脳波記録では発作間欠期には一側性あるいは両側性に前側頭葉あるいは蝶形骨誘導を中心に棘波あるいは鋭波が記録され, 発作時には一側側頭葉を中心に theta recruiting rhythm が記録される. 頭蓋内脳波記録では 65% において一側の海馬, 扁桃核より同時に, 25% は海馬より, 10% は扁桃核より発作発射が始まる. 画像診断ではMRIにおいて海馬の大きさが非対称で, 焦点側において萎縮があり側脳室側角の拡大が認められる. FDG によるPET記録では一側側頭葉の広範囲の低代謝域が発作間欠期に認められる. SPECT は PET ほど敏感ではないがやはり発作間欠期に一側側頭葉を中心に低灌流域が認められ, 発作時にこの部位が高灌流域に反転する. このような臨床的特徴を備えた例では頭蓋内電極を用いな くても前側頭葉切除あるいは選択的扁桃核-海馬切除術により高率に発作を抑制することが可能となることを報告している.

私共は蝶形骨誘導を用いた頭皮上脳波において発作間欠期の棘波あるいは鋭波が 90% 以上一側蝶形骨誘導を中心に記録され, 発作時記録においても同部位から発作波が起始するほか, 脳波上の発作起始側に一致して MRI, CT において海馬硬化, 萎縮, 腫瘍性病変などが認められ, SPECT所見とも矛盾の認められない症例では頭蓋内電極を省略して前側頭葉切除を行っているが, 術後 80% の症例において発作は完全に抑制されている. 一方, 非侵襲的検査において一側側頭葉焦点の存在を明確にできないか硬膜下電極による皮質刺激による言語野の同定を必要とする例に対しては頭蓋内電極の留置を行っている.
(b)両側側頭葉てんかん(私どもの手術成績)
脳波ビデオモニタリングを行うと, 時に両側側頭葉より独立した発作発射を認めることがある. 私共の経験では脳炎の既往がある例の約半数にお いて蝶形骨誘導を用いた頭皮上脳波記録において明らかに両側の独立した焦点が認められ, 頭蓋内電極による検索ではこのような両側側頭葉焦点例は 14-25% の頻度である. このような両側の側頭葉に独立したてんかん焦点を有する症例の手術適応については異論が多い. 従来, 両側側頭葉焦点は頭皮上脳波において発作間欠期に両側に独立した発作波が認められることより診断されていた例が多いが, 頭皮上脳波において両側性側頭葉に異常が認められた症例のうち 73% はその後の深部電極記録において焦点は一側側頭葉に限局していたという結果もあり, 従来の報告は必ずしも真の両側性焦点例において検討されているわけではない. So らは深部電極により同定された 25 例の両側側頭葉焦点例で発作が 80% 以上起始する方の切除で良好な成績を得ている. さらに, Hirsch らは深部電極にて両側焦点と診断した 23 例において (1)発作の50%以上が切除側の側頭葉より記録され, (2)アミタールテストにおいて反対側の側頭葉記憶機能が正常であり, (3)側頭葉外に焦点を思わせる所見のなかった 11 例に前側頭葉切除を行っているが, 9 例 (82%)で発作の消失を認めている. 三原らは頭蓋内電極により切除側の反対側より一回以上複雑部分発作が記録された両側性の海馬扁桃核発作の 10 例について検討している. 対照とした一側焦点群の 30例での発作消失率が 87% のあったのに比較し, 両側焦点群では 70% であり, 両側焦点例では手術効果がやや劣るが手術適応と考えている. 一般には複雑部分発作の起始の頻度の多い側頭葉が通常切除側となるが, 臨床発作の割合, 複雑部分発作の内容, subclinical seizure の存在, 発作の進展様式, 画像所見などから総合して決定すべきである.

このように両側側頭葉焦点例において一側焦点の切除により, 発作が完全に抑制される機序については secondary epileptogenesis により形成さ れた鏡焦点が, 一次性焦点の切除により二次性焦点の活動が減弱するという仮説のほか, もともと側頭葉てんかんは両側性の疾 患であるする考えもある. 海馬硬化は両側性のことが多く, Soper らはサルの側頭葉へのアルミナクリーム注入によるてんかんモデルにお いて, 一側への注入では発作が誘発されず, 両側への注入により発作を誘発できたことから両側のてんかん性側頭葉の間に相互促進作用が存在するため, 一側の切除により反対側のてんかん原性も失われるものと考えている.
(c)脳内病変を伴った側頭葉てんかん(私どもの手術成績)
      難冶性側頭葉てんかん例で海馬硬化以外の種々の病変がMRIで側頭葉内に認められることがある. このような病変がてんかん原性と関連する場合には一般に手術結果は非常に良好であり, さらに, 切除により病理診断が確定できるほか, ことにグリオーマであれば切除で完全に治癒できるので積極的に手術治療を考慮すべきである. このような限局性の病変が存在する例では病変のみを切除するのか, 病変およびその辺縁部をふくめて切除するのか手術方法については議論が多い. ことに側頭葉病変では外側皮質に病変のあ る例で, 側頭葉内側構造の切除を行うかどうかについては反対側側頭葉機能の状態などの考慮が必要である. 海馬以外の部位に病変を有する例では海馬硬化のみの例に比較して海馬錐体細胞の脱落が軽度である. このため, Spencer らは優位側の海馬切除による言語性記憶障害を軽減するため, 側頭葉外側に病変のある例では海馬を温存している. 我々は側頭葉に限局したグリオーマ 3例, dysembryoplastic neuroepithelial tumor (DNT) 2例, 海綿状血管腫 3例, 脳動静脈奇形1例, subependymal heterotopia 1 例, 孔脳症 1 例の計 11 例に対して側頭葉内側構造を含めた前側頭葉切除を行ったが, 側頭葉内側構造の切除が不十分であると思われた側頭葉極の海綿状血管腫例の1例において術 3 年後に断薬を契機に発作の再発を認めた以外, 全例で発作の消失が得られている. Yeh らの側頭葉内脳動静脈奇形27例においても, 側頭葉内側構造を含めた切除で 21 例 (78%)に発作消失が得られている. また,海馬外の側頭葉内病変例において同側海馬の同時切除が, どちらか一方の切除より有効であることが示されているが, その選択はすでに述べたように個々の症例での独自な条件を考慮する必要があることは言うまでもない.
3)手術成績および合併症
Engel らの集計によれば 1985 年までの前側頭葉切除術の成績は 2336 例中発作消失が 55.5%, 改善 27.7%, 不変 16.8% であったが, 1986-1990 年 には前側頭葉切除 3579 例中発作消失 67.9%, 改善 24.0%, 不変 8.1% と著明に手術成績が向上している. また,積極的に行われるようになった選択的扁桃核-海馬切除例でも 413 例中発作消失 68.8%, 改善 22.3%, 不変 9.0%と前側頭葉切除術と同程度の成績が得られている. 日本での長期 follow-up の結果の報告は少ないが,症例数の多い静岡てんかんセンターの結果では, 2年以内の発作消失率は90%,2-3年で76%,4年以上で77%と高率に発作の完全抑制が得られている.
手術による死亡率は 1980 年以前の報告では 0.8-1% であるが, 顕微鏡手術が普及した現在では, より少ないものと考えられる. 原因としては術後出血,脳梗塞,呼吸器合併症などであり,てんかん手術に特有なものはない. 合併症として最も重大なものは片麻痺であるが,初期の症例ではシルビウス裂内での中大脳動脈あるいはその分枝の損傷によると思われ,軟膜下に切除することにより減少した. 最近の症例では側頭葉内側構造切除の際の前脈絡動脈,後脈絡動脈,後大脳動脈の損傷が原因と考えられるが, 頻度としてはきわめて稀であり一過性のものは 4% 程度とされている. 私共の 26 例では全く経験していない.
合併症の頻度として多いのは視野欠損で 50% 以上の症例で生じている. 通常,切除反対側上1/4半盲であり,ほとんど自覚せず,眼科的な詳細な視野測定により明確になる. これは側脳室側角の上を走行する視放線が一部分切除されるために生じ,脳室の上側方の開放を1cm以内に留めることにより防止することができる. また,側頭葉内側部の切除の際の血管損傷により,末梢部の視索,外側膝状体,切除部後方の側頭葉白質の虚血により視野障害が生じうる. このほか,一過性の動眼神経麻痺が 1% 未満に,顔面神経麻痺が3%の頻度で生じており,こ れらは内側部構造の切除時に生じるものであり,慎重な手術手技を要する.

優位側標準的前側頭葉切除例では術後に一過性言語障害が出現することがある. 覚醒下の術中皮質刺激あるいは慢性硬膜下電極による皮質 刺激による functional mapping により言語野の同定を行い, 裁断的切除を行っても 30% の症例において言語障害の出現が報告されている. これは前側頭葉内あるいは側頭葉下面の言語野の障害あるいは functional mapping により同定された側頭葉外側の言語野の近傍の切除により生じる. 通常,これらの障害は一過性であり術後に持続しても1年以内にほぼ消失する. このほか,優位側の切除の際には術後言語性記憶障害が出現する. 選択的海馬扁桃核切除術では標準的前側頭葉切除術に比較して術後の視野欠損および material-specific memory の障害が少ないと報告されているが, global memory の障害はやはり出現する. 一方, 非優位側切除では従来より視覚性記憶機能の低下が報告されてきたが私共の症例では出現していない.


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