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脳梁離断術


(1)脳梁離断術の歴史
1940年, Van Wagenen と Herren は脳梁破壊病変が意識減損を含む全般性発作形態の著明な変化や頻度減少をきたすなどの臨床観察をもとに, 発作軽減の目的で難治てんかん 10 例に行った脳梁の部分あるいは全離断の報告を, また同年, Erickson はサルの皮質電気刺激による焦点発作の全般化は脳梁切断により防ぎうることを報告した. これらの臨床実験結果は現在の技術的水準からみれば若干問題があるにせよ画期的であったが, ちょうど中心脳仮説が一般化されてくる時期であったためか, その後 20 年間注目されなかった. しかし, 1960 年代に Bogen と Vogel によりその有用性が報告され, さらに術前後の神経心理学的検査による脳梁機能の検討が可能になった. 小児例では Luessenhop らが初めて大脳半球切除術に代わる術式として脳梁, 前交連, 一側の脳弓の離断を行い発作が一側半球由来と考えられる症例において特に有効であることを示した.

難冶てんかん手術治療の際に最も重要なことはそれを進める医師が手術により発作が軽減あるいは消失することにくわえ, 新たな障害を生じないということについての確信を持っているということである. この点で脳梁離断が永続性の離断症候群をきたすことが神経内科医の受け入れ難いところであった. 一方, 1971 年脳梁膨大部を温存することにより離断症候群を防止できる Gordon らの報告に刺激され, また実験的にも脳梁前 2/3 の離断により全離断と同等の効果が得られることが確かめられ, 後遺症のない脳梁前半部離断術が Wada により提唱された. Vancouver では 1977 年に第1例目の手術が行われ以後広く行われるようになった. 一方, 顕微鏡手術の導入と離断範囲を脳梁と海馬交連に限るなどの手術手枝の簡素化, また後遺症を最小限にするための二期的全離断が考慮され, この手術法は飛躍的に普及する に至った.
(2)手術適応
切除外科の対象とならない例については脳梁離断術の可能性について考慮してみる必要がある. すでに 800 例以上の多数例に脳梁離断術が行われており, その手術適応, 効果についての再評価がそれぞれDartmouth と Palm Desert でのカンファレンスにおいてなされた. 手術の対象となる症候群としては infantile hemiplegia, Forme-fruste infantile hemiplegia, Rasmussen 症候群, Lennox-Gastaut 症候群, 前頭葉てんかんや Sturge-Weber 症候群があげられる.
脳梁離断が部分発作の二次性全般化抑制を意図したものであったにもかかわらず, 実際の効果は全般発作の片側化のみならず, その局在化あ るいは発作の完全消失をきたす例が早くより見出されていた. 脱力あるいは強直発作を伴う症候性全般性発作, 非定型欠神発作などの全般性発作に対しても有効で, これらは脳梁が発作全般化のみに携わるとする仮説では理解できない. 我々の例においても転倒発作, 非定型欠神発作例において発作の消失が 75% 程度に得られ, 強直発作では発作の消失率は少ないが発作頻度の減少あるいは持続時間の短縮が 60% に認められた. 全般性強直間代性発作については効果は一定していない. 複雑部分発作に対する有効性についても議論の分かれるところであるが, 前頭葉起源の複雑部分発作, 側頭葉てんかんで両側焦点例あるいは両側側頭葉間の伝幡時間の短い例において有効とする報告もある.
手術適応とされる症例の脳波所見としては両側同期性棘徐波, 二次性両側同期化を伴う棘波焦点, 急速な二次性全般化, 多焦点が報告されている. 従来よ り一側性の臨床症状, 脳波異常, 画像異常があり, てんかん原性と一致する際には, 全般性に異常のある例よりも手術効果が良いとする報告が多 い. しかしながら, 全般性脳波異常が二次性両側同期化に依るかどうかの区別は必ずしも容易ではない. 我々の例においても術後脳波の特徴として両側同期性発作波の一側半球への限局化あるいは非同期化する例があり, これらは結果的には二次性両側同期化を示す脳波であったと考えられるがそれらの術前同定は困難であった. この点, 我々の開発した多変量自己回帰解析による術前脳波の術後変化のシミュレーションは, 術後発作波の一側半球限局化をよく予測しおり, 手術適応を考慮する上で有用なものであ る. しかしながら, 術後発作波頻度が減少するほか, 少数例ではあるが発作波が完全に消失することはすでに述べたように脳梁が両側発作波の伝播あるいは同期化のみに関与しているという説明では不十分である. すなわち, これらの発作型を有するてんかん例では脳梁系神経細胞のより動力学的な機能異常がその根底にあることを想定すべきであって, これは今後の重要な研究課題である.

さて, 重度の精神発達遅滞例は広範囲の脳障害を伴っているため一般的には手術の有効率が低いとされているが, 必ずしも手術適応外でない. Lassonde らは重度精神発育遅滞例での検討を行い, 特に 12 歳以下の例では術後に発達が改善され手術による後遺症も代償されやすいことから積極的な早期手術の必要性を示唆している. また, 我々の例においても成人に比較して小児例では術後の発達の改善が明らかに認められている. 小児例では発作が難治になるにつれ精神発達退行が出現するが, 発作反復, 多薬剤使用を余儀なくされることなどを考慮に入れると早期の手術適応についての包括的検索が必要とされる.
(3)離断範囲, 手術成績および術後合併症
 脳梁の離断範囲については現在も異論が多い. 従来の報告では脳梁の全離断の方が有効率が高いとする結果が示されたが, MRI以前の症例も多く含まれており正確な離断範囲判定は困難である. また, 全離断ではたとえ二期的に手術を行っても永続性の離断症状を防止できない . 通常, 全離断時には脳梁前半部離断を行ない, 充分な改善が得られない時に二期的に後半部離断を行うことが多い. Gates は脳梁前 2/3 離断後に術中脳波記録において両側性発作波が 50% 以上減少しないときに一期的に全離断を行っている. 一方, Wada は二次性全般化発作が脳梁離断により抑制され, この効果は脳梁前半部離断と全離断では差が認められないという実験結果より脳梁前半部離断のみを行い, 75% の 症例で著明な改善を認めている. 最近の報告においても脳梁前半部離断術で 70-80% 程度に改善が得られ, たとえ脳梁後半部離断を追 加しても有意な改善が認められず脳梁全離断を行う必要はないとする報告もある. また, Marino らは術中の発作波が消失する部位までの選択的脳梁離断を行っているが, 我々の経験では術中脳波による判定は必ずしも容易ではない. 我々は前頭葉を中心に脳波異常を認める症候 性全般てんかんおよび前頭葉てんかんの23例に脳梁前半部1/2-4/5の離断を行ったが, 脳梁の離断範囲と手術効果の間には明らかな相関は認められなかった. 手術成績は報告によりかなりの差があり, これは対象例, 手術法あるいは手術結果の評価法が報告により異なることが一因となっている. 1993 年の 集計では 563 例中発作の消失 43例 (7.6%), 改善 343 (60.9%), 不変 177 例 (31.4%) であり, 私共の結果では発作消失 14.2%, 改善 64.2%, 不変 21.4% であった.

 Spencer は脳梁離断後に生じる神経心理学的な合併症を脳梁離断症候群と永続性の神経学的続発症に分けて述べている. 脳梁離断症候群は離断範囲に応じて生じる合併症で, 一過性のものと永続性のものがある. 一過性の離断症候群は術直後より認められる自発言語の減少, 失禁, 非優位側下肢の麻痺であり, 脳梁前半部離断ではほとんど認められないか, 出現しても数日以内に回復する. 一方, 一期的全離断ではより明瞭に出現し, 数ヶ月間の無言状態となることがあるが, 二期的な全離断ではこのような状 態は軽減される. 脳梁後半部ことに膨大部の離断後には感覚系の離断症候群が認められ, また, 全離断後には運動および感覚ともに非優位半球が言語半球より遮断され, いずれも永続性の合併症となる. 永続性の神経学的続発症 は必ずしも全例に出現するものではないが, 術前の検索により出現がある程度予測される永続性の合併症である. 軽度片麻痺例では術後に麻痺が増悪する. また, 言語半球と利き手が異なる例では発語, 書字障害が出現すると Spencer は報告している. しかしながら, 言語障害に関しては Vancouver の脳梁前半部離断例では出現していない.

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